―コラボレーションのきっかけを教えてください。
柏村:初めて野尻社長とお会いしたのは、物流関係のセミナーだったと思います。少し話が逸れてしまうんですが、初めてお会いした時期がアンビシャスファームを創業する直前ぐらいで、ちょうど経営のことで悩んでいたんですよ。
その時に野尻社長から「僕はパン職人じゃないけどパンの会社の社長をやっていて、まわりの人たちに支えてもらいながら自分なりのスタイルを持って続けている」と教えていただいたんです。僕自身、脱サラをして農業を始めたんですが、自分より農業に詳しいベテランさんに支えてもらいながら経営するという野尻社長と近しい状況だったので、とても気持ちが楽になりました。
だからというわけではないですが、独自のスタイルで経営をされている野尻社長といつか一緒にお仕事できたらいいなと思っていたんです。その念願が叶って“どんぐり”大麻店の出店が計画されていたタイミングで、野尻社長から江別の街のことや農業のことを聞きたいとお声掛けいただきました。それが今まで続いているコラボレーションの始まりです。
野尻:そう思っていただいていたなんて光栄です。大麻店がオープンしたのが2018年5月…もうそんなに経ったんだという感覚ですね。私が柏村社長に声を掛けたのは、せっかく江別に進出するのであれば、地元の人たちと一緒にお店をつくっていけたらいいなという想いがあったので声を掛けさせてもらったんです。最初は、うちのお店を使って何かできることはないかな?みたいな相談を持ちかけました。
柏村:すごく驚きましたね。農業は土地がなくてはできない職業なので、地域に根ざすことを考えざるを得ない職種だと思うんです。でも、札幌で人気のパン屋さんの社長が、江別に出店するからといって江別に貢献したいとか、盛り上げることをやっていきたいと言ってくださって純粋に嬉しかったですね。
―最初の取り組みはどんなことでしたか?
柏村:森林公園店に野菜を卸したのが、最初のお取引でした。当時、“どんぐり”さんが農家から直接仕入れるのが初めてとお聞きしていたので、市場で買う野菜との違いを感じてほしいとも考えていました。野菜のことだけじゃなく僕らの会社の取り組みだとか、地域のこと、そういった野菜づくりの背景まで知っていただきながらやり取りできたらいいなと思っていました。
野尻:江別でお店を出すからこそ江別の食材を使いたいと考えていたんです。たとえば、自分の庭でつくったキュウリと、農家さんがつくったキュウリを比べると純粋に味だけ比べれば当然、農家さんがつくったものの方が美味しいと思うんですよ。でも、自分の庭で採れたキュウリって、すっごく美味しく感じるんですよね。自分の身近なもの、距離が近いものっていうのはやっぱり愛着も湧くし、想い入れも強くなる。そういう意味でも江別の食材を使っていきたいと考えていました。
それに加えて柏村社長が日々、取り組んでいらっしゃることは普通の農家さんがやっていることよりも結構とんがったこと、独自のことをやられていると感じていたんです。だから地元にこんな素敵な農家さんがいるということを“どんぐり”を使って広めていけたらいいなとも思っていました。
-コラボレーションによって、どんな効果がありましたか?
柏村:まず、社内が大いに沸きました。「どんぐりさんが江別に来て、うちの野菜を使ってくれるらしいよ」って伝えたら「マジか!?」「やったー!」と大盛り上がり。仕事へのモチベーションが、そこでかなり上がりましたね。こんなにスタッフが喜んでくれるなら、もっといろんなコラボを一緒にやりたいなって思いました。
やはり“どんぐり”さんは、みんなが大好きで憧れているお店なんですよね。パンが美味しいことはもちろん、ワクワクさせてくれるお店づくりだったり、雰囲気がいい。そういったパン屋さんの原料として僕たちが育てた野菜が使われるというのは、確実にスタッフみんなの誇りになっています。ただ野菜を売り買いするだけの関係じゃなく「どんぐりは、僕たちのパン屋さんだ」ぐらいの気持ちで関わらせてもらっていますし、これからもやり取りさせてもらえたらいいなと願っています。
野尻:本当ですか? それは嬉しいですね。パン屋だけに限った話ではないんですが、僕らが子どもの頃って売値が高いとか、店舗数が多いとか数字の結果が全てだったような気がするんです。極端にいえば、どんな手を使っても結果を出せば問題なかった。でも、これからの時代は、みんなで力を合わせて会社や団体を運営していかなければ存在感を高めることはできない。たとえば、パン屋のようなお店が地域で生き残ることは難しい。そういう時代を迎えていると思うんです。だから、今こうやって一緒に色々なことに取り組めているのは、とても嬉しいですよね。
-最初に納品したのは、どんな野菜でしたか?
柏村:冬だったのでジャガイモだったと思います。最近は、大麻店でフライドポテトにしていただいていますよね。キタアカリがフライドポテトにハマったみたいで美味しいって評判だと聞いています。
野尻:そうですね。すごい人気なのはいいんですが、パン屋なのにパンじゃないんですよね(笑)。実際にアンビシャスファームの野菜を使ったパンについてアンケートをとったわけではないので明確に言えないんですが、確実にお客様は反応してくださっていますよ。
これは僕の考えなんですけども「地元のものだから美味しい」っていうのは違うと思うんです。場所に関係なく美味しいものは美味しいのであって、先ほどお話しした愛着の沸きやすい身近なもの、地元や地域というものが付加価値として関わってくるのかなと。江別の方々が「江別って何もないよね」って合言葉のようにおっしゃるんですけど、そんなことないんですよ。だって現に、こんなに美味しい野菜があるんですから。それを“どんぐり”から発信できたらいいなと思っています。
柏村:そのひとつとして “ふたりのマルシェ”を週に1回、大麻店でやらせてもらっています。元々、このマルシェは僕が農業を始める時に一緒に始めた直売所なんです。野尻社長がおっしゃったように「江別に何もないから」っていわれるのが悔しくて、江別ではこんなに美味しい野菜がたくさん採れているんだということを地元の人に知ってもらいたいと思って始めました。当初は“どんぐり”のお客様に「ふたりのマルシェです!はじめまして!」というスタンスでしたが、3年くらい継続していくと定着してきたようでコラボの相乗効果を感じているところです。
野尻:お客様の反応は、とても分かりやすいですよ。野菜を買いにきて、ついでにパンを買っていく人が結構いますから。毎週のようにお客様が楽しんでいるのを見ると、両社にとってプラスになっているんだなと実感しますね。なにより “ふたりのマルシェ”の雰囲気がとてもいいんですよ。
-2社のスタッフが交流するイベントも開催されました
柏村:今では一般のお客様向けとして開催している収穫体験会を、まず2社の交流の場として開催していました。最初に参加したのは、“どんぐり”の新札幌店と大麻店の社員さんやご家族の方々、それと弊社のスタッフ。まず冬に雪下キャベツ掘りからパン作りをして、夏には野菜の収穫からピザづくりをしました。とても盛り上がって、その後も各店舗のリーダーさんが収穫体験をしたり、継続的に弊社のスタッフと交流いただいています。
農業というフィールドを使って“どんぐり”さんのなかでもチームワークづくりや店舗間の交流にもなっているみたいなので両社にとって実りのあるイベントになっているんじゃないでしょうか。今のところ、僕たちの農場での交流なんですが、新型コロナ禍が落ち着いたら実際にお店でパンづくりを体験させてもらってお互いの職場への理解をさらに高めていきたいなと思っています。
野尻:そうなんですよね。アンビシャスファームさんは基本的に屋外なので、コロナ禍ではやりやすいんですよ。“どんぐり”はどうしても屋内になってしまうので、タイミングが難しいんですよね。
柏村:早く実現できるといいですよね。僕たちにとってこの交流は、まず農業を知ってもらうチャンスですし、“どんぐり”への理解も深まるので取引自体が良いものになってきているなと感じています。たとえば、僕たちの農場がある豊幌って風が強いんです。そこでレタスを育てていると風に巻き上げられた砂が当たって、カサブタみたいになることが時折あるんですね。何もご存じない取引先だとクレームになってしまうんですが、“どんぐり”さんは畑で直接見て、その状況を理解していただいているのでとても助かっています。
野尻:そういうことって知らないと「なんか変だよね」で終わっちゃうと思うんですよ。でも、こうやって相互理解を深めることで、パンづくりだけではなく、その食材についても学びを深めることができる。弊社のスタッフも、パンの製造・販売という部分では特化していますが、それ以外の部分で人生経験として“人としての深み”につながるんじゃないかと思っています。なにより普通の農家さんだったら、こんな体験をさせてもらえないですから。
柏村:私たちのような経営者も、パンや野菜を一生懸命つくってくださっているスタッフも大事なのは相互理解。先日、僕も“どんぐり”さんの店長会議に出席させてもらいました。非常に興味深かったですね。こうやって色々な部分で交流を続けていければうれしいです。ずっと思っていたんですけど、出会った時から野尻さんはとにかく素敵な経営者なんですよ。社員を大切にするところや人材育成にも力を入れられていて、これからも相互理解を深めつつ盗めるものは全て盗みたいなと思っています(笑)。
-その他にコラボレーションしていることはありますか?
柏村:僕は今、江別観光協会の副会長をやらせていただいていまして、“どんぐり”さんも会員として江別を盛り上げるイベントに企画段階から参画いただいています。そのひとつが江別マルシェです。“どんぐり”さんにはキッチンカーで出店していただいていまして、こだわりのメニューが人気なんですよ。マルシェに来ないと食べられない限定メニューが多くて、本当に頭が下がります。
その他にも“ふたりのマルシェ”の1年を締めくくるイベントを大麻店でやらせていただきました。江別の飲食店さんが集まったお祭りみたいなものなんですが、大盛況で2時間くらいで、ほとんどのお店が完売してしまうほど人が集まったんですよ。
-これまでのコラボレーションについて手応えはいかがですか?
野尻:コラボによって集客が増えたというのは、明確なデータを取っていないので正直分かりません。でも僕たちの願いとしては“パン屋に来て、パンを買って帰りました”だけじゃなくて、もっと違う楽しみがお店にあって「あのお店は、いつ行っても楽しいよね」と思ってもらいたい。
そのひとつとして大麻店で、アンビシャスファームさんが見たことのない野菜や珍しい野菜が売っているというのは“どんぐり”にとって大きなプラスだと思うんです。ましてや「これはどんな野菜?」って質問したら丁寧に説明してくれる。このコラボによってお互いに、ポジティブな方向に進んでいけたらいいなと思っています。
柏村:ここまでお話しした通り、このコラボ自体が社員の誇りになったり、モチベーションになっていることが大きい成果です。その上で“どんぐり”とコラボをしている農家として知っていただく機会が増えていることは、ありがたいなと感じています。
野尻:そう言っていただけると僕らもうれしいです。これまでのコラボによって何かが劇的に変わったということは、まだありません。“どんぐり”は元々、目の前の売上を達成するために必死になる会社ではないんですよね。僕の望みは、今取り組んでいることが、いつしか“どんぐり”の価値となって滲み出て、お客様へ伝わっていくこと。こういった地域と方との取り組みを続けることで、いつの間にか地元の方に愛されるお店になっていました、となるのが理想なんです。
パンが美味しいとか、人がいいとか、それはもう当たり前の前提条件。その上で地元の人と一緒になって何かをつくる。そうすれば自ずとお店に愛着は湧くと思うんですよ。みんなで何かをしていくこと、それがひとつの価値になっていくと私は信じています。
-それが現在、会社として目指しているゴールイメージですか?
野尻:もう店舗数や売上といった規模に囚われない。僕が考える会社の一番大切なことは「続く」ということ。そのためにどうするべきかと考えると、それは地元の人たちに応援してもらえる会社になっていくということなんです。そういう意味では、アンビシャスファームさんとのコラボは、確実に想い描いた方向へと進んでいると思っています。
柏村:私たちは“江別の人が江別っていいな”と思える魅力、そのひとつにアンビシャスファームがなれたらいいなと思っています。それは野菜づくりだけじゃなくて、マルシェのこと、働く人のこと、コラボなどの取り組みも含めて“江別には、アンビシャスファームがあるよね”と言われたいですね。あと、野菜って食べない人がいないですよね。“食”という部分で全ての人との接点がつくるれることも農業の魅力。そういった農業の利点を使って地域を盛り上げていけたらいいなと思っています。
-今後、こういったコラボをどのように広げていきたいとお考えですか?
野尻:なにか企画をやりたくてコラボをやっているわけじゃないんですよね。江別を盛り上げたり、繋がりを生むような面白いことがあったら積極的にやろうと思っています。
柏村:そうですね。僕たちは特別なことをしているわけではないんですよね。でも頑張っている人は、同じように頑張っている人と繋がりやすい。特に江別は程よくコンパクトなので共感できる仲間と繋がれる。そういった輪を広げていきたいと思っています。
あと僕の夢なんですが、アンビシャスファームの農場で「どんぐり」さんがパンを焼いてくれたら面白いと思うんですよね。
野尻:全然アリだと思いますよ。期間限定で“アンビシャスどんぐり”がありますって面白いかもしれませんね。
柏村:これを機に、また新しいことが始められそうですね。お互いの強みをミックスしてお客さまが求めていることをもっと実現していきましょう。