-“どんぐり”で働いていて、“どんぐり”の良いところはどんなことだと思いますか?
西岡:まず、ひとつ挙げられるのが、“どんぐり”のパンには余計なものが入っていないということ。例えば、食パンで使っているのは小麦粉や水、塩、イーストなどの基本的な材料のみ。保存料などの添加物は使っていません。家族や知り合いに「これは安全だから」と作ったパンを渡せるのは、パン屋として自信になりますね。
そして、他のパン屋さんと絶対的に違うのが、お客様に温かいパンを買っていただくために閉店30分前であってもパンを焼くということです。勉強のために色々なパン屋さんに行きますが、今まで閉店直前まで焼き続けるお店に出会ったことがありません。ほとんどのお店が午前中に焼き終わっていたり、夕方になったら値引きをして売り切ってしまうお店ばかり。私自身“どんぐり”のスタッフですが、これは本当にすごいこと。大きな強みかなと思っています。
高橋さんは入社して3年経ったけど、どう感じている?
高橋:お店に並んでいるパンはリーダー1人が決めているのではないことを入社してから知りました。スタッフみんなで話し合って決めていて、新商品もみんなで考える。色んな人の意見が商品に反映されているのが、“どんぐり”のすごいところだと思っています。
山本:私が言おうとしていたことを高橋さんに言われてしまいました。やっぱり私はスタッフみんなが、いつも新鮮な気持ちで目標に向かって取り組んでいる姿が好きですね。年齢に関係なく、作る人も売る人も楽しそうに働いているのがパンにも表れているんじゃないかな。
廣瀬:最近はおしゃれなパン屋さんが増えて、値段もケーキぐらいするものもありますよね。そういうものも美味しくていいんですけど、“どんぐり”は、ずっと変わらず手頃な価格で、直感的に食欲をくすぐるパンづくりに徹しているところが魅力です。単純に「これが食べたい」って思わせてくれて、ついついトレーの中がいっぱいになっちゃう。その他にも、どこの店舗に行ってもメニューが変わらないチェーン店と比べて、“どんぐり”は店舗ごとに違う商品が並んでいて、複数の店舗を巡って楽しむ「どんぐりツアー」ができるのが良いところかなって思います。
岩松:お客様の方が詳しいことがありますよね。あそこの店舗にはあったけど、ここの店舗にはないの?って聞かれることもありますし。
廣瀬:でも、あまり「ない」とは言いたくないので時間をいただければ材料を取り寄せて1個からでも作っちゃいます。場合によってはメニューにないパンも作りますよね。
西岡:そうですね。以前、1歳の誕生日を祝う一升餅をパンで作ってくれってお願いされたことがあります。だけど一升分(約1.8kg)のパンを作ると、かなり大きいのでお客様に確認しながら小さな子どもでも背負える大きさにして作りました。こういったオーダーは、たまにありますね。
山本:揚げパンに生クリームを入れてくださいってお客様もいましたね。うちの揚げパンは結構大きいんですけど、それに生クリームを絞って5本も買っていかれたときはスタッフみんなビックリしました。
西岡:そういう意味で“どんぐり”は、お客様のアイデアから生まれたパンが多いかもしれませんね。ちくわパンも先代の奥さんがお客様からリクエストされたのがキッカケだったと聞いています。
岩松:メニューの話も含めて“どんぐり”って本当にお客様想い。お客様が既にトレーに乗せたパンと、出来立てのパンを取り替えて差し上げるのも良い例ですよね。それも店員から「取り替えましょうか?」と聞くなんて、他のパン屋ではないと思います。
山本:普通は古いものから買ってほしいって考えますから。
岩松:“どんぐり”は逆で、とにかく温かいものを買ってほしいんですよね。
西岡:そういうことができるのは常に何かしら焼いているからだと思います。“どんぐり”のすごいところは、店頭に並んでいるパンを見て1時間後にどれくらい減っているかイメージしたり、推測できるスタッフが多い。
高橋:私も最初は全く分からなかったんですけど、毎日どれくらい売れているかデータと店頭を見続けていくうちに段々感覚が掴めてきましたね。
-“どんぐり”には様々なこだわりがありますが、パンづくりではどういったことにこだわっていますか?
西岡:美味しいパンを作るために食材を選んでいるということでしょうか。例えば、小麦粉にはいろいろな種類がありますが、それぞれに得意分野があるので作るパンに合わせて選ぶようにしています。全ての材料を北海道産で揃えるパン屋さんがありますが、“どんぐり”の場合は先入観なくパンの種類に適したものを選ぶようにしています。もちろん北海道産で美味しいパンが作れるのであれば、そちらを選びますよ。例えば大麻店でもアンビシャスファームという地元の農家さんとコラボレーションをしていますし、“どんぐり”全店で使っている玉ねぎも「札幌黄」を使っています。
あと“どんぐり”の場合は、どうしても年間で何百トン、何千トンの材料を使うので必要な量が手に入るかどうかも重要ですね。安定して材料が手に入らないとパンが作れずに、お客様に迷惑をかけることになってしまうので。
-お客様にもっと知っていただきたいこだわりとしては、店内で手作りしている具材もありますね。
山本:カレーパンで使っているカレーも、家庭で作るように玉ねぎの皮を剥くところから店舗で行っています。材料にもこだわっていて赤ワインやリンゴジュースを贅沢に使い、水は蒸発する分くらいしか入れていません。ここまでこだわって作っているってことはお客様に知られていないんじゃないでしょうか。
西岡:みなさんが思っているより具材に対して妥協がないと思います。本当にいいものを使っていますね。
山本:“どんぐり”の代名詞になっている「ちくわパン」もすごいですよね。市販では、あまり売ってない塊のシーチキンを使って、ちくわも紀文食品さんに作ってもらっているんですよね?
西岡:ちくわは、紀文食品さんに焼き上がったときに程よい食感とモチモチ感が残るようにお願いをして、繰り返し配合を研究してもらったものを使っています。
廣瀬:パン以外にもお店で作っているサラダは、キャベツを千切りにして、にんじん、玉ねぎ、水菜などを細かく切ったものを和えてサラダベースを自分たちで作っています。工場で作られるカット野菜は使っていないんですよ。
西岡:サラダについては消毒でも強いこだわりがあります。よくスーパーなんかで見かけるカット野菜は塩素液で洗っているんですが、“どんぐり”では自分の家族に出すものを塩素で洗うのか?というところから議論が始まって、流水でもお客様に提供できるよう洗い方・水温・回数を検討しました。今では衛生的な部分をクリアにした上で流水だけで洗うようにしています。
-“どんぐり”の特徴は、各店舗でパンを焼いていることです。チェーンのパン屋さんのようにセントラルキッチンを置いていません。
西岡:今まで議論がなかったわけではないんです。もしかするとセントラルキッチンの方が働く人は楽になるかもしれません。でも、そうすると工業製品のようになってしまい大切なパンに愛情が持てなくなってしまいます。お店で手間をかけるということには意味があって全てを自分たちで作ることで愛情が湧き、責任を持って売ることができると思っています。
山本:お店の厨房からお客様が幸せそうにパンを食べているのが見えると、私たちの活力にもなるし、また美味しいものを作ろうって思えますよね。
西岡:そうですね。それに万一、商品に問題が起こったときも店舗で作る方が問題点をすぐに見つけられて、リカバリーが早くなるというメリットもあるんですよ。
- “どんぐり”にはパンづくりだけに留まらない様々なこだわりがあります。これまで一緒に働いてきた方も含めて、“どんぐり”のこだわりで印象的だったことはありますか?
高橋:私は直属の先輩の菓子へのこだわりが、本当にすごいと思っています。大麻店のほとんどのお菓子を考えている方なんですが、作る技術はもちろん商品のアイデアもたくさんあって毎日お菓子のことを考え続けているんだろうなと尊敬しています。私もちょっとずつ考えてはいるんですが、まだまだ及ばないレベルで…岩松さんは本店の新商品開発で活躍されていると聞いていますが、アイデアを考えるヒントはありますか?
岩松:先日、バレンタインに向けたフェアがあったんです。そこで私は、オレンジピールとチョコと生クリームを挟んだパンのアイデアを出しました。そのアイデアのきっかけというのが、休憩中に「オレンジピールの入ったチョコが美味しい」って本部の方が教えてくれたこと。試しに食べてみたら本当に美味しくて、これをパンにできたらと考えたんです。アイデアのきっかけって、こんな感じで普段の生活の中に転がっているんですよ。あとは家族から今こういうのが流行っているよって教えてもらうこともヒントになっています。でも、結局は自分が食べたいと思うものが一番なのかもしれないですけどね。
廣瀬:商品開発のスペシャリストといえば、山本さんもそうですよね。私も商品開発が苦手なので、いつも新商品のアイデアを出す時期には頭を抱えています。自分なりに他のパン屋さんへ行ったり、美味しいご飯を食べにいってアイデアを出すんです。でも、ふわふわした感じで頭の中にあるんですが、それを形にするのが難しくて…。そういうときに山本さんに「こういう感じのパンを作りたい」って相談すると、「これ入れたらいいんじゃない?」「こういう形にしたらいいんじゃない?」って答えてくれて、とても助けられています。
山本:みんなできますよ。岩松さんが言っていたようにアンテナを張っていれば大丈夫。
廣瀬:アリオ店では困ったら山本さんに聞くっていうのが定番になっていますが、本店の岩松さんも含めて長く勤めている方々の経験って、やっぱり私たちの比じゃない。本当に頼りにしています。
西岡:商品開発は正直、作ってみないと分からないことがあるのでアレルギーチェックをしっかりやった上で、まず売り出してみることがあります。売れなかったら何が悪かったのかを検証して、改善して、また販売してみる。ちなみに企画から販売まで最短1日だったこともありますよ。
廣瀬:そういうことも含めて誰でも新商品の開発にチャレンジできるのが“どんぐり”の良いところですよね。新入社員が商品開発するときには必ず先輩社員がフォローしてアドバイスをしてくれますし、レシピの作り方や原価の考え方なんかも、そこで全て学ぶことができます。初めて自分の商品が店頭に並んだときは、なんだか不思議な感覚でしたね。この経験はとても大事で、お客様が買ってくれるという「ありがたさ」を感じますし、1日で何個売れたのかなって気になったりもして、たくさん売れているときは本当に嬉しかったです。
-パンづくり以外でのこだわりはありますか?
西岡:先日、山鼻店に行ったんですが、とてもきれいにラップされているのを見て感動しました。話を聞くと元々麻生店(現在は閉店)にいた方が担当されたそうで、今まで見たことないくらいに商品全てが同じ形でラップされていたんですよ。どうやって包まれているのか気になって買ってみたんですが、ラップを止めているテープも折ってあったんです。
山本:ラップを剥がすときってテープの端っこが剥がしづらいんです。ひと手間かかりますけど、折ってあると剥がしやすい。そういった心遣いは、とても大切なことなので“どんぐり”全体にもっと広がっていったらいいなと思いますね。
-最後に、みなさんにとって“どんぐり”とはどんなお店でしょうか?
西岡:美味しいことは当たり前で、プラスアルファの感動や楽しさがあったりするのが“どんぐり”なんだと思います。また来ようって思っていただけるお店であり続けたいですね。
高橋:パンだけでなく全てにおいて、ちゃんと自分たちの手で美味しいものを美味しいときにお客様に届けられるお店だと思います。
岩松:そうですね。やっぱり手作りということが一番。そのためにも自分も含めて新しいものが生み出せるように探究心をもっと磨いていきたいです。
山本:守っていくものは守りながら進化をしているのかなと感じています。だから家族みんなで楽しみにしながらご来店ください。
廣瀬:山本さんが言ったように、きっと週一で通っていただいても同じメニューが並んでいることはないと思います。いつ来ても焼き立てのものがありますし、お客様を飽きさせることはないのかなって思います。販売スタッフの活気も含めてワクワクできるお店を楽しんでほしいですね。